Vol.55 – 村田アンドリュー/日常の中にある美しさを愛でたくて、僕は小説家になった

・求めることより、求められること。
 └何かに迷った時、自分が求めることではなく求められることを優先したい。流された方が面白くなったり、うまくいくことがあるから。

・なんだかんだ適当。
 └言葉自体にもまとめないくらい適当であることを大事にしています(笑)

いま

– アンディさん、よろしくお願いいたします!
シェアハウスに住んでいたり、併設のバーで1日店長をされていたり、小説を書くことをお仕事にされていたりと多彩ですよね。
今やっていることを詳しくお伺いさせてください。

はい。住環境は今のご説明の通りで、仕事はフリーの小説家として生計を立てています。いろんな形で文章を書いていて、詩、小説などオリジナルの創作もしています。原稿の販売もしています。
ご依頼はこちらで受け付けています。


(原稿のお写真。こちらも幻想的!)

noteも書いていますので、こちらもよかったら。

– すごいですね!

新人賞にも応募をしています。
一方、生計のメインになっている仕事は、誰かの人生を小説に仕立てるというものになります。大事なことを思い出せたり、迎えたかった未来を忘れないようにしたりするための作品です。
最近はギフトとしても贈れるようにしていて、結婚する友人カップル向けに物語を書いて欲しいだとか、新しく作る会社のストーリーを書いて欲しいだとか、そんなご依頼もいただいています。

– 素敵ですね!私も書いて欲しいです…
これは全てアンディさんがお書きになっているのですか?

はい、基本的には僕が。ただ、最近はお客さまご自身が文章を書かれたい時のお手伝いをすることもあります。まだプロトタイピングの段階ではありますが、テクニックを教える講座というよりは、寄り添ったコーチングのイメージが強いですね。
Zoomで月2回1時間ずつご一緒して、事前に書いてきていただいた文章を一緒に見たりしています。感情の言語化のお手伝いの意味合いの方が強いかもしれません。
ひとことで言えば、自分自身の言葉で作品(詩/小説/エッセイなど)を書けるようサポートする仕事です。

– 本当にコーチングのようですね。アンディさんは、物を書きはじめたのはいつ頃からなのですか?

(2022年1月現在で)いま24歳なのですが、20歳頃からですかね。
大学2年生の終わりごろにちょうど20歳を迎えたのですが、自分がこれからどうやって生きていくか見直しまして。
大学もちょうど休学していて、色々と考えていました。

最初は、やりたいことの軸を対社会で捉えていたのですが、徐々に、対個人で何かをしていきたいと考えるようになりまして…
だとすると、自分のやりたいことというのは、商業的な仕事というよりも芸術に近いのではという感覚になっていきました。
であれば創作をしようかなと。絵やITスキルを必要とするものだとハードルは上がりますが、文章であれば、子供の頃から本はよく読んでいたので、書けそうかなって。

– まずやってみる姿勢がとても素敵ですね。参考にしている文体、書籍などはあるのでしょうか。

「アルケミスト〜夢を旅した少年〜」という本が好きで何度か読み返しているのですが、あれの現代版が書きたくなって、そこからですね。

– 私は未読なのですが、どうもタイトルから鋼の錬金術師のイメージが…(笑)

そうですよね(笑)
本作は、スペインの田舎で羊飼いをしていた少年が、ある夜に見た夢を辿って旅へ出る話です。
途中でアルケミストと呼ばれる老人に出会います。夢や運命を生きるうえで指針になるような知恵や言葉が散りばめられていると思います。

– あ、錬金術師がメインというわけではないのですね。「星の王子さま」的な印象を受けましたが…特に気になったエピソードはありましたか?

小説を書く時にもよく引用している一節があって…

『では、たった一つだけ教えてあげよう』とその世界で一番賢い男は言った。『幸福の秘密とは、世界のすべてのすばらしさを味わい、しかもスプーンの油のことを忘れないことだよ』」

というものです。
これは、主人公が賢者に「幸福の秘密とはなんですか?」と訪ねた時に、賢者が回答した言葉です。

ざっと背景を説明すると、主人公はスプーンに油を注がれて、そのまま屋敷を回ってこいと言われ、戻ってくると「私の屋敷は美しかっただろう」と聞かれますが「油が気になって全然周囲を見られませんでした」と答えます。
すると賢者は「それでは次はスプーンなしで屋敷を見てご覧」というのですが、今度は主人公は油のことを忘れて屋敷を楽しみます。
帰ってきた主人公に、賢者は上記の回答をします。

僕は世界の美しさに目を向けることを大切にしていますが、美しさに触れるたびに、このスプーンの油を思い出すようになりました。

– アンディさんにとっての”スプーンの油”は、何かあるのですか?

うーん、「フィーリングに任せる姿勢」ですかね。
頭で考えようとせずに、それに意識を戻すようにしています。

– 宇宙兄弟のシャロンみたいですね。

– いま、フィーリングを必要とする…岐路のようなものはありますか。

これまでは、とりあえず小説のサービスを固めることに集中していたんですよね。
これを今後どうしていくかという展望を立ち止まって考えることをしてこれなかった。
ちょうど年末年始の休暇で、少しずつ思い描くようにしています。

これまで物語を書かせていただくにあたって、どの人のお話もそれぞれ、とても美しいと感じてきました。
僕の根源的な欲求の一つに、「美しさに触れて生きたい」というものがあります。
それは日常の一コマでもいいし、それを通じて想起される何かでもいい。
繰り返される日々の中で、そこにある美しさを愛でていたいのです。

– そういえばアンディさんはPORTOで1日店長をされていますが、「うつくしさ呑み会」という場も企画されていましたね。

はい、2022年2月ごろから始動しようかなと。
元々は「モノガタリ呑み会」という場を開いていて、ろうそくの火を囲みながら、僕が書かせていただいた小説を肴にみんなでお酒を飲む空間でした。
「うつくしさ呑み会」も同じ場所でやるつもりで、最近出会った「美しさ」について集まった人たちで語ったり、真っ新な紙と鉛筆でそれを自由に表現できるような時間にしたいと思っています。

– アンディさんが最近美しいと思ったものはありましたか?

いま年末年始で名古屋に帰ってきているのですが、元旦に雪が降って。
陽光は差しているけれども雪が降っているという、珍しい天気でした。
ベランダに出て屋根の下で煙草を吸っていたら、街の向こうの地平線を連なった雲が覆っていて。
まるで雪が空に積もっているように見えました。ぱっと思い出したのはその景色ですかね。

美しいなと感じたものは無限に溜まっていくので、いくらでも話せてしまいます(笑)

これまで

– それでは次に、これまでのお話を伺いたく。最初の記憶はいつ頃ですか。

僕は、家族の事情でアメリカで生まれたのですが、生後半年で日本にきているのでアメリカの記憶はないんですよね。
最初は静岡にいて、次に愛知県の田舎へ。
幼稚園の通学路につつじが咲いていて、蜜を吸いながら登校していたのを覚えています。

– 私もやっていました!自然の中で育った子供は通ってきた道ですね。

小学校に入ると、1年生の夏休みから親の転勤でベルギーに行くことに。
英語とフランス語を勉強しつつ、6年生まで公文式に通っていました。

– ベルギーにも公文式があるのですね!

そうなんです。
テニス、水泳、大きくなってからはサッカーとバスケ。
習い事は毎日あったかな?図書室にもよく行っていて、星新一やダレン=シャンを読んでいました。

– 多岐にわたって色々されていたのですね。どういうご性格だったのでしょう?

とにかく自己肯定感が高かったですね(笑)
愛されて育ってきたからか親とのしがらみがなくて。先生や友達にも恵まれました。
愛されすぎて調子にのっていたのかな?自分のことをすごい人間だと思っていました。

– 親に認めてもらえなくて、自己肯定感と戦ってきている人は多く見てきましたが、なんというか、よかったですね。
海外で育つとマイノリティ問題やアイデンティティ喪失に悩む人も少なくないですが、それもなく、すくすく育った感じ。きっと、周囲のみんなが受け入れて褒めてくれたんですね。

本当にそうですね。その中でも一応、挫折と呼べる出来事はあって。
中学生になって日本に帰ってきた後は、インターナショナル・スクールに入ったのですが、テニス部に入って大会に出て、思っていた以上に周りのレベルが高くてちょっとへこみました(笑)
2回戦で負けてしまったのですが、それまで可愛がってくれていた顧問の先生がちょっと冷たくて…そこで初めて、「結果を出さないと認めてもらえないんだ」という気持ちが芽生えました。

– スポーツが与える好影響ですね。ごきょうだいは?

きょうだいとしては2つ上の兄がいますが、平等に愛されて育ってきたなと思います。

– 子供にきょうだい間の差分を感じさせない育て方、ご両親すごいですね。高校以降はいかがでしたか?

高校に入ってからは教員になりたいと思っていたのですが、3年生になった時に、外務省のプログラムでアメリカに2週間派遣されまして。
日本の文化を発信するというもので、結構多くの日本人学生が参加していたのですが、その時に日本の英語教育の課題を感じたんです。
そこで文部科学省で働くことなどを考え始めました。

そして、官公庁に入るなら公立の良い大学に進学したほうがいいのかなと思い、家からも近い名古屋大学で教育制度を学ぶ学部に進学しました。
ただ、入学したら全然授業に出なくなりました(笑)

– なにがあったのでしょう?つまらなかった?

学びたいと思っていたことが授業の中にないことに気づいてしまった。
授業ではなく、自分が欲しいものはキャンパスの外にあると思いました。
休学届を出すまでは結構早くて、1年生のゴールデンウィーク明けくらいでしょうか。

休学届を出す前は、タイの田舎で国際協力のボランティアに参加していました。欧米には慣れていましたが、東南アジアには行ったことがなかったので、様子を見てみたいなと。その後、その経験がきっかけで国際協力関係のことをやりたいと考え、休学届を出しました。当時東京でそういう活動をしていたチームにジョインしたりして。
小説を書き始めてからは海外を旅しながら書いたりしていたのですが、途中で、さすがに休学期間も長いし大学を辞めようかなと。
そこから今に至ります。

– いろんなご経験をされているのですねぇ。

価値観

– 日本の人はしがらみを気にする傾向がある気がしますが、アンディさんの心持ちの自由さは、海外生活で培われたのでしょうか。

それはあると思います。日本で育っていたらこういう未来にはならなかったでしょうね。学校が帰国子女オンリーだったのもよかった。人と人は違うということを、子供の頃から体得できていました。

– 素晴らしい。あとから頭で理解しようとするとダイバーシティみたいな話になりますが、最初からそれであれば本当はロビイングなんていらないですからねぇ…。
アンディさんは、割となんでも肯定的というか、ポジティブに捉えようとするか、嫌なことには固執しなさそうなタイプに見えますが、嫌なことってあったりするのですか?

ありますよ(笑)
とにかく忙しいことが嫌ですね…。もともと体育会系だったので、やるべきことに向けて走り抜く!というのはできるのですが、他者が要因で忙しくなるのは避けたいです(笑)

– うわーわかる…これは私もそうですね。忙しくするかは自分が決めますって思っている(笑)

そうですね(笑)
決められた時間に決められた場所へ通い続けるのも苦手です。

– これも同感です…。私は子供の頃、学校で、時間によって受けるべき授業の教科が決まっていて、それを受講するのが義務なのが疑問でした(笑)今となれば受けるか受けないかはある程度自由意志が効くのであろうことはわかりますが、皆がそれに疑問を持っていないことも不思議だった。

海外でも日本みたいなカリキュラムではありますが、価値観の成り立ちがちょっと違うかもしれませんねぇ。

– 教育には今でもご関心が?

そうですね。ただ、僕の思う教育という概念は、教え込むというものではないんです。
人に何かを伝えた時、そのひとに学びがあればいいと思っていて。
だからそれは授業じゃなくてもいい。

本でもいいし、小説でもいいし、詩でもいい。
だから今僕がやっていることも教育につながる部分はあるかなと思います。
よりアートに近い形で、必要な人に必要なものが届けばいいというスタンスではありますが。

– 相手に必要なものが、見える?

こういうことを考えて生きていそうだなというのは見えてくることがありますね。
じゃあこういうことを喜ぶだろうな、といったことが芋づる式に感じられる。

でも、自分の観察眼が間違っていることももちろんあるから、決めつけないようにしています。
コーチングの時もそれに気を付けていましたね。

そのためにも、抽象度を上げていきたいんです。
それがフィクションであれば、見立てが間違っていたとしても探求のきっかけになるだけだから。

– たしかに。本人の決めつけを行わずに、示唆として本人に気づきが起こることのほうが自然発生的ですね。

僕は「こうだよね」と断定されるのが好きではないので、人に対してそれをしたくないという思いもあります。

これから

– これからしたいこと。

活動面とメッセージ面のふたつがあります。

活動面では、日々の中の美しさを愛でられる機会を増やすこと。
美しさとはどこか遠くにあるものではなく、すぐ近くにもあるのだという感覚をみんなで育みたい。
「うつくしさ呑み会」もそうですし、「Barヨハク(余白)」という場の構想を練っています。

Barヨハクについては、僕のFacebookインスタグラムを見ていただければ。

– 面白いですね!1日店長をされているPORTO日本橋で、ですか?

PORTOが割と空いている曜日があって、そういう企画を提案してみようかなと。
平日の夜という余白を家で過ごすのもいいけれど、その余白を違う形で味わえるバーがあったら豊かな気がして。

まっさらな紙と鉛筆がカウンターに置かれていて、最近あったことを作品にしたり、何か「美しい」と感じた情景を描写してみたり。
日常の合間に、お酒を嗜みながら創作する楽しみを共有できたら嬉しいです。
添削してほしい方はその場でしますし、「店長と一緒に作品をつくりたくて」バーへ足を運ぶって、新しい体験になるのではないかと。

紙と鉛筆なんて放っておいて、世間話や相談に耳を傾けたり、本や映画好きな店主(僕です笑)と話して楽しんでもらうだけでもいいなと思います。

あと、本を作りたいという話をPORTOの別の店長としています。依頼を受けて書いたその方の小説も「美しさ」がテーマになっていて。
その作品をSNSで広めつつ、自分がこれまでに感じた「美しさ」をハッシュタグと共に投稿してもらう、みたいな活動ができたらと想像しています。

– 芸術、創作を日常文化にしていけたらということなのですかね。

そうですね。やがてそれが集まったら、共著のような形で本にできたらいいなと。
クラウドファンディングをして製本してみたい。

この1年を通じてのんびり進めていけたらと思っています。

– ふむふむ。メッセージ面の方はいかがでしょう。

文学やアートの新しいジャンルを提案してみたいです。
著名人が広告代理店を挟んで流通させる資本主義的なアートの構造に対して、SNSの普及もあって、個人がもっと簡単に芸術としての表現を発信できる時代になっていると思います。
暮らしの一部として当たり前に、自分や誰かのための作品をつくる時間が増えていったら嬉しいです。

– 芸術があると心が豊かになりますよね。
生きていく上で生活をもっと豊かにしたいというのがアンディさんのモチベーションなのかもしれませんね…。

自己実現という言葉が多く聞かれる中で、それは仕事の内容だったり、稼ぎの額だったり、SNSのフォロワー数だったりする。
でもそれってそんなに難しくなくてもいいんじゃないかって気がします。
紙の上に自分を表現して、たった数人がそれに共感したり感動してくれるだけで満たされることもあるのではないかと。「今すぐできる自己実現もあるよ!」、というオルタナティブを示したいのかもしれません。

– これを必要とする人、これによって心が軽くなる人がいそうな、大切なご活動ですね。ありがとうございました。

Guest

村田アンドリュー裕亮(アンディ)

言葉が口から出ると同時にみるみるまとめられていって、のっちさんのスピードに驚嘆しました。笑
記事を読んで面白がってくださる方が、少しでもいれば嬉しいです。

オリジナルの作品を販売、新人賞などに応募しつつ、小説とコーチングを掛け合わせた仕事をしています。
話を聴き、語り手の人生を小説にする「あなたの物語」。その方が自分自身で作品を書けるようにサポートしていく、「わたしの物語」。

そのような体験を、ギフトとして大切な方々に贈っていただくこともあります。
結婚や出産、卒業や成人といった機会から、新しい何かにチャレンジする誰かや企業のため、悩んだり落ちこんでいる友人のためなど、サプライズも含めてさまざまな依頼をいただいてます。

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Interviewer

Nocchi

とても落ち着く雰囲気とお声をされているアンディさん。小説を書かれているというのもご自身の感じととてもマッチしていて、この人の思う”美しさ”をもっと知りたいと思いました。

合同会社N.FIELD代表 / Workstyle-Lab Polaris管理人
フルコミ取締役が見つからないSeriesA〜CクラスのStartup向けに、ブリッジCOO+CFO機能を提供。
大手銀行、IT企業新規事業部を経て独立。一般社団法人の事務局なども務める。
幼少期より人の思考回路に関心が深く、2018年よりPolarisを運営。
狐崎のち名義で漫画も描いている。