※内容は、2019年3月時点のものです。
出された料理は、全部食え。
やってみることで、気づくことはあるから。
経済産業省で様々なプロジェクトに携わる田口さん。
若手の働き方改革から、Mobility、地方創生まで、その範囲は様々。
なぜ官僚を選んだのか、その実態とは。
伊吹さんの記事と合わせてどうぞ。
[ Vol.15 – 伊吹 信一郎 / NEDOから内閣府へ出向し、ベンチャーに携わる官庁の若手エース ]いま
– 田口さんの今のお仕事について教えてください。
はい。経済産業省の田口です。
僕は今、本業は三つありまして…
– たくさんありますね(笑)
そうですね(笑)
一つ目は、大臣官房総務課の総括係長。
と言っても、何をやっているかわからないですよね(笑)
他省庁との業務のやりとりの窓口や、省内の政策のとりまとめを担当しています。
経産省って、産業政策全般から、製造業やサービス業、エネルギーや中小企業など、幅が広い分野を所管しているので、全体のとりまとめや、調整をする仕事をしています。
あとは、災害対応も担当しました。昨年でいえば、7月の西日本豪雨や9月の北海道胆振東部地震ですね。
特に北海道の地震では、震災直後に大規模停電が発生して、電力の供給が不安定になりました。
そうした中で、特に被災者の皆様に、節電のご協力をお願いする仕事をしていました。
– そんな動きがあったのですね!
二つ目は大臣官房主査。
省内で、若手発の働き方改革をしています。
公務員の仕事って、実際に手を動かして仕事をしている立場からすると、効率化できる業務ってたくさんあります。
打ち合わせの調整とか、決裁を取る時の手順とか。細かい点であっても、改善できることを着実に進めています。
業務の効率化を進めたうえで、もう一つ重要なのが、働くモチベーションを高めていくことです。
僕は、人が仕事にやりがいを持つ時って、やりがいを持っている人と接触して、影響を受ける時だと思っていて。
だから、最近は、省内の若手によるピッチ大会を開いて、ナナメのつながりを構築できる場を設けたりしています。
– 霞ヶ関にオープンイノベーションの印象がなかったので、意外です。
そうですよね。
オープンイノベーションという点では、霞ヶ関って縦割りの印象が強いと思うのですが、働き方改革については多くの人がアグリーなんです。
みんな、やらないといけないことだから。
特に若手における意識はとても強く、連携して取り組むポテンシャルがある。
ただ、そうした取組を進める場がなかったので、各省庁の若手30人くらいに声をかけて、霞が関全体の業務改革について議論する、「霞が関働き方改革ラボ」を組織しました。
– 良いですね!
三つ目は、Mobilityと地域のプロジェクトに携わっています。
MaaSのレベル5実装がいつ頃かといった話もいいのですが、僕らはまず現在の交通課題をどう解決するかというところに目を向けています。
[ MaaS – Mobility as a Service ]例えば、僕が担当している地域の1つが福井県の永平寺町。
過疎化が進んで、交通事業者も収益を上げにくい状態になっている。
人口減に伴って、こういう地域が今後も増えていきます。
こういう地域で、自動走行は将来的な解決策になりえますが、そうした技術が普通に使われるようになるまでには、まだ時間がかかる。
だから、今、ある程度の事業性を確保しながらも持続性をもってできるサービスを考えないといけないんです。
あとは、MaaSに限りませんが、新しいモビリティサービスを影響するスタートアップと、自治体などが協業を進める場の提供が必要だと思っています。
例えば2月は、毎週木曜日に、モビリティ関連のスタートアップによるピッチイベントを開催していました。
– 私も最近One JapanでMobility分科会に参加したのですが、迅速に活用を進めるのはなかなか難しいですよね。
実際、地方にヒアリングに行っても、自動運転の実証実験に対して、何となく怖い、という印象を持つ人もいるんです。
よくわからないものは怖い、と。
便利なサービスが開発されたところで、それがすぐに受容されるかというと、そうではないんですよね。
– 東京都を、独立国家なり、サンドボックス地区に指定したらどうかという議論をたまに仲間内でするのですが、どう思われますか。
国家戦略特区は、この構想に近いのかなとは思いますが。
うーん…
東京一極集中で技術を高め、それを地方に還元するというのは、僕は違和感があるんです。
技術というのは人のニーズに基づくべきだと思っていて。
これまでの産業革命って、その背景に何らかの社会的要請があったじゃないですか。
東京的な価値観と、地方の価値観って、今でも、ものすごく開きがあるんです。
それは優劣で考えるべきではない。
でも、価値観のギャップを認識して、どういう課題を抱えているのか、ということを、相手の価値観というフィルターを通してみないと、結局のところ誰のためにもならないサービスとかテクノロジーが生まれるだけなんじゃないですかね。
– その場所でヒアリングして、そのペインを地道に解決することこそ、求められている、ことなのですかね。
この50年間で、1人当たり実質GDPは大体20倍くらいになっているんですが、今の生活に満足していると答える日本人の割合は60%程度のままなんです。
[ 内閣府 – 世論調査 ]経済や技術の発展が、誰のためのものなのか。
誰を幸せにするのか、ということを念頭に置かないといけないのではないかと思います。
– これから、幸福度を上げていくためには、何が有効なのでしょうね。
ケインズは1930年に書いた「孫たちの経済的可能性」の中で、100年後には、必要な労働時間は1日3時間程度になる、と予想しています。
面白いのは、その時、余暇の使い方が問題になる、というんですね。
暇になった人間が、退屈にならないためにどう過ごすか、が将来の幸福さを考える上では重要なはずです。
さらに面白いのは、マルクス、エンゲルスも、未来においては、生命維持のための労働がなくなるのではないいか、と考えているんです。
そうした世界では、能動性や好奇心、モチベーションといった、自発的な動機に基づく行動が求められるのではないかと思います。
– 生きることを、楽しむ姿勢ですね。
そうですね。
そのためには、自分たち自身がどういう世界を作りたいのか、という意思が必要なのではないかと思っています。
未来を描くとき、僕らの思考は、何に懐かしさを感じるか、ということに大きな影響を受けるのではないかと思います。
猪瀬直樹氏と落合陽一氏が共著の中で面白いことを仰っていて。
僕らは小学生の時、必ずと言っていいほど「故郷」の歌を歌いますよね。
そうすると、「兎追いしかの山」の風景が懐かしくなる。
あるいは、みんなドラえもん観ますよね。
そうすると、土管のある空き地の風景が懐かしくなる。
でも、多くの人は、山で兎を追いかけたことないし、土管のある空き地で遊んだことないですよね (笑)
– 確かに、こないだ久しぶりに『サザエさん』をみる機会があったのですが、ツッコミどころが多いというか、今とのギャップがすごくて、改めて衝撃を受けました(笑)
そう。
あれらは、高度成長期以前の風景なんです。
僕らは、あれを今から目指すわけではないでしょう。
同じ本の中で、落合さんが、現代日本人の心象風景は3つあるのではないか、とおっしゃっています。
それは、コンビニ、ショッピングモール、そしてスマホの画面です。
でも、この風景には発展性がないのではないかと思います。
子供の頃に共有しておくべき原風景は、作りたい未来につながるものであるべきなのではないかと思います。
[ 猪瀬直樹/落合陽一 – ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法 ]– 面白いです、この視点はありませんでした。
話は変わりますが、実際に、経産省に入られてみていかがですか。
我々の仕事が、全体を俯瞰して、最適解を見つけていくことなので、視野の広い人が多い印象です。
また、多くの人が、何らかの原体験に基づいて経産省に来ているので、胸に秘めた熱い想いがある人が多いです。
そうした方々と一緒に仕事をすることは、とても素晴らしい経験ですし、自身の成長にもつながります。
同時に、若手が問題意識をもって行動することを、全力で応援してくれる組織でもあります。
それが経産省のDNAの1つでもあるんです。
なぜかといえば、例えば、スタートアップとの距離感を詰めていかないと、どういう経済政策を講じるべきか、見えてこない側面もあります。
でも、官僚とスタートアップって、そもそも考えている時間軸がバラバラで、あたかも違う言語で話していることもありますよね。
スタートアップとの距離を縮めるために、アクティブに活動できるのは若手の官僚であることが多いですし、それを応援してくれる組織でもあります。
– だからこそ、経産省の中でまず、若手同士がつながる場を作っていっているのですね。
はい、それが大事だなと。
それに、大企業や官庁の優秀な人たちのリソースって、もっとたくさん活用すべきだと思っています。
彼ら彼女らの優秀さをもっとオープンソース化した方が、できることは増える。
– やっぱり副業解禁ですね(笑)
私自身も複業をすることが正義ということではなく、多くの価値観に触れることで、固定概念にとらわれずに俯瞰的に社会を捉えられるようになることが重要だと思っています。
そうそう。
一歩、これまでの世界からはみ出して、外の世界に触れることで、今まで見えなかったものに気付けたり、改めて自分のいる環境について考えることができたりしますからね。
これまで
– 子供時代、学生時代。
僕は小学生から高校まで埼玉、大学から東京で。
小学校の時はやんちゃでしたね、林に行って木を拾って、チャンバラごっこしていました(笑)
当時ロード・オブ・ザ・リングが流行っていたので、レゴラスの真似して弓を作ったり。
[ ロード・オブ・ザ・リング ]-習い事って何かされていました?
公文式、ソフトボール、水泳、個人の英語塾…
公文は小学校3年生ごろまでやってて、宿題からいかに逃げるかって考えてました(笑)
– 過去のインタビューでは、習字やそろばんが役に立ったという回答がありました。
ああ…弟がとても頭がいいのですが、彼は習字、そろばんやってましたね。
僕はひたすら遊んでましたけど(笑)
クラブ活動はバスケとかドッジとかやっていました。中学から野球部ですね。
– 運動がお好きなのですか?
いや、これが全然得意じゃないんですよ(笑)
高校からは弓道部に入ったんですが、これも、みんなが初心者なものがいいなあと思ってで。
ただ、これがすごく相性が良くて、東日本で準優勝するところまで行きました。
弓道って立禅と言われるのですが、自分をすごく見つめるんですね。
[ 弓道と禅 ]– 内省の機会が増えそうですね。勉強の方はいかがでしたか。
中3のクリスマスに、当時付き合っていた彼女に振られたんですけど…
そこから、うわ〜っと勉強して、志望していた浦和高校に行けました。
– 良かったような、良くなかったような(笑) やっぱりモテたかったですか?
そりゃそうですよね(笑)
見た目は変わらないから、匂いだなと思って、ワックスつけたり、香水買ったりしていましたよ。
典型的な中二病の症状ですね。
– なかなか面白いですね(笑) 高校生活はいかがでした?
すごく楽しかったですね。
部活も楽しかったですし。あとは芸術の選択授業で木工芸があるんですがロッキングチェアを作ったり、かなりの労力を割いていました。 (笑)
– すごいな〜。大学受験は。
ちょうど、高校3年生の時にリーマンショックがあったんです。その時に父親が経営していた会社が倒産して。
そうすると、家も引っ越したり、車がなくなったり、実生活が変わっていくんですね。
ちょうどそのころ、実存主義哲学者の本をよく読んでいて、やがて自分の生きる意味的なものを模索するようになりました。
それこそニーチェとかです。
– なかなか渋いですね(笑)
僕のやれること、生きる意味を問いただそうとした。
フランクルの「夜と霧」という本があります。
アウシュビッツに捕らえられた、ユダヤ人の心理学者の本です。
彼は、「わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちから何を期待しているかが問題なのだ」と書いています。
それを読み、僕は、何のために生きるのか、はあんまり重要な問いではないのかな、と思ったんです。
むしろ、人生飽きないように、自分がやりたいことをやろうと思ったんです。
自分のやりたいことは何だろうと考えたときに、自分が人と違うことは何なんだろう、と思ったんですね。
その時、リーマンショックなどの経済の動向で、自分の生活が変わった経験をしたことって、特殊な経験だなと思いました。
だから、経済という大きな概念を相手にする仕事がしいと思ったんです。
– なかなか面白いですね。
それで、経産省に入ろうと思って、きっと同じ志を持っている人が多いと思った東大に入ろうと考えたんです。
ただ、この考えに至ったのが高校3年生の11月だったので、受かるわけもなく、浪人しましたけど(苦笑)
– 浪人させてもらってよかったですね(苦笑)
家族には迷惑かけたな、と思います。
大学では、引き続き、弓術部に入りました。あんまり授業にはいかずに、道場と図書館を往復する生活でしたね。
弓術部では、インカレで個人入賞したり、4年目は主将を務めたりしていました。
– どういう本を読まれていたのですか?
ひたすら、社会科学とか人文科学の古典を読んでいました。
中野剛志さんという、色々な本を書かれて有名になった、東大弓術部のOBで、経産省の先輩がいるんです。
1年生の時に、彼に、学生の時にやっておくべきことを聞いたら、社会科学でも人文科学でも、古典を読めと言われて。
ビジネス本は社会人になってからいくらでも読むけど、古典を読む機会が減る。でも、古典は僕らの思考の基礎になるっていわれて。
– バイトはされていたのですか?
家庭教師を半年くらいやっていました。
でも、そこから自分自身が得られるものが少ないかなと感じて。
普段接しない人たちと話そうと思って、派遣社員としてとして、遺品整理とか、デパートの展示会の什器設置とかやってました(笑)
いわゆる派遣労働で、色々なバックグラウンドの人が働いていたので、普段触れ合うことのない方々と話す機会になりました。
– 就活はどうされましたか。
もう、まっすぐ、経産省志望でした。
民間企業への就職活動もしませんでした。
これは結果的に、いい面、悪い面、あると思います。
最後の選択は経産省だとしても、せっかくの機会だったので、他の企業を見ておくべきだったのかもしれないな、とは、思わないでもないです。
ただ、時間が無限にあったわけでもないですし、後悔はしていません。
– 他の省庁を受けようとは思われませんでした?
他の省庁の説明会には行きました。
ただ、中でも経産省の説明会は面白かったし、登壇者も生き生きしていて、そこで仕事をしたいな、と。
– 登壇している方に惹かれるかは、就活で結構、鍵になりますよね。
価値観
– 今、一番やりたいこと。
マインド・アクティブ社会の実現、ですね。
マインド・アクティブ社会とは、自分の人生に対して、自発的に意思決定をしている人が多い社会のこと、と定義していて、そのために何ができるかということを、省内の若手有志で議論しています。
人の主観的決断と、主観的幸福度って、相関性があるんですよ。
例えば、主観的幸福感には、学歴や収入より、自己決定の方が強い影響を与えているという研究があります。
[ RIETE – 幸福感と自己決定―日本における実証研究 ]また、これはイギリスの公務員に対する研究ですが、仕事に対するコントロール権がある高い職種についている人の方が、そうでない人よりも、長生きをする、という調査結果があります。
[ THE WHITEHALL STUDIES ]でも、何かを自己決定する機会って少ないと思うんです。
敷かれたレールに沿って生きていれば、どうにかなっちゃうのが今の日本です。
本当にお前がやりたいことは何だ、何をしたいんだ、と問われることがないまま大人になってしまっていますよね。
例えば小さいところでは、Amazonのリコメンド機能ってすごいですよね。
ああいうのが、職業選択とか、恋人の選択にも広がっていっている。
一から自分でものを考えて決定するという機会はどんどん減っている。
– はい、最適化と思考停止は、二律背反になるのかもしれませんね。
テクノロジーの発展自体は、歓迎するべきことです。
でも、それだけに頼らずに、自分が何をしたいのか、ということを見つけて、自分で意思決定をする機会を作り出さないといけないと思っています。
これがマインド・アクティブなんです。
– どういった方々を対象と捉えてらっしゃるのでしょう。
いつの時代も、社会を変えるのは若者だと思います。
だから、若年層に刺していきたいですね。
やりたいことを見つける方法がわからない人、同世代でマインド・アクティブに頑張っている人がどういう思考回路なのかがわからない人とか、たくさんいるんじゃないかと思っています。
あとは、障碍のある方でマインド・アクティブな方って多いなと思っていて。
全盲の方が、東大に合格したという事例があるのですが、ハンディキャップを抱えている方が、何かを実現しようとするときの思いって、とても強いと思います。
普段やりたいことを見つけられずに生きている人間にとっては、こういう姿勢が、すごく刺激的なはずで。
– ちなみに、世界で最も幸福度の高い国としてブータンが良く挙げられますが、あの話ってどう思われます?
GNH(Gross National Happiness)だと思いますが、幸福度の数値化って、恣意的になりがちですし、評価が難しいな、と思います。
例えば、日本総研が発表している47都道府県の幸福度ランキングがあるんですが、どの県が高いと思います?
– えっ…暖かく、競争が少なさそうな…沖縄?
ふふ。なるほど。
実はね、沖縄は45位なんです。
– えっ、そうなのですね!上位はどこなのですか?
1位福井です。そして東京が2位。
これは教育とか生活のレベルが指標になっているからです。
でも、肌感で感じる幸福感とはちょっと違いますよね。
– AIでもそうですが、精度やデータ量という話以前に、何をしたいか、ですしね…
主観とは人との対話や関係性の中で醸成されるものだと思っていて。
周囲の皆が同じ生活をしていて、比較をされることもなく、ロールモデルが目の前にあり、同じサイクルを回している生活では、主観的な幸福感は高めやすいですよね。ブータンの地方部とか、それこそ江戸時代とか。
– ストレスを感じにくそうではありますね。
そう。
アフリカのある民族に、将来のことを考えくださいというと、3年くらいまで先しか考えられないそうです。
それは、1年後も2年後も、同じ時間のサイクルの中で生きているからです。
時間が循環している。
でも僕らは違う。
30年後とか50年後とか、だいぶ先のことを考える。
結婚できるかな、自分の仕事どうなっているかな、年金もらえるかな、とか。
その時たくさんの選択肢があって、親世代や子世代や同年代とたくさんの比較を行う。
– 特に日本においては、戦後GHQの偏差値教育の浸透は感じますね。
そうですね。
一方で、どこにいても妬み、比較というのは存在するもの。
スクールカーストも人種差別もどの国にもある。
– そうなると、ユートピアというのはどういう概念になるのでしょうね。
マタギの世界が面白いと思っています。
– またぎ…?
[ マタギ ]秋田で特に有名な、熊などを狩猟する人たちのことです。
これまでって分業の世界じゃないですか。社会全体の中で、割り当てられた仕事をすることで対価をもらう。
社会のシステムのパーツとして仕事をすることが、生きていくための手段になっている。
でも、マタギって、自己完結なんですね。
マタギという行為が社会で生きるための手段ではない。
生の一部として、自然を畏怖しながら、マタギという行為を行っている。
先日ちょうど、NHKでマタギの特番をやっていました。
マタギは、熊を「山神様の使い」と考えて、狩った熊を「授かり物」と呼ぶんですね。
それで、神の使いなのになぜ熊を撃つのか、と聞かれるんですが、マタギは答えられないんですね。
わからないんです。
実態のマタギはめちゃくちゃ大変ですし、いまはマタギの職だけで生きている人はほとんどいませんが、自分たちが自然に生かされていると強烈に意識しながら、仕事を手段としてしないマタギの姿には、見習うべき点はあるのではないかと思います。
[ NHK Eテレ – ETV特集「熊を崇(あが)め 熊を撃つ」 ]– いいですね。
例えば、高層マンションや高級車といった、ある種嗜好品のある資産は、(他人との比較の)象徴だと思っていて。
私自身もそうなのですが、特にPolarisの対象者は概ね、不動産などの資産価値による競合優位性に、満足度を見出す人は少ないですね。
不動産含め、資産が人の価値観や行動を縛る、という側面は面白いですよね。
SAMPOってご存知ですか?
モバイルハウスで移動しながら暮らす、という新しいライフスタイルを提供している人たちです。
立ち上げメンバーの1人の村上さんは、もともとVR事業をしていたんですが、本物の川を見て、VRの川はこれには叶わないと思ったらしいんですね。
[ モバイルハウス – SAMPO ]きっと、バーチャルで体験することのハードルが下がるほど、リアルの価値が上がるんだと思います。
そうした中で、資産を持ちすぎると、僕らが経験できる世界の幅が狭まるんじゃないでしょうか。
– わかります。今って、wi-fiもネットも整い、テレカンもできるようになり。
直接、時間とお金をかけてでも、会いたい人、見たいものって、相当大事にしているわけですよね。
実際、外出率って下がっているんですよ。
多分、SNS含め、バーチャルに何かを経験したり、人とコミュニケーションとることが容易になったから、わざわざ外出することのコスト・パフォーマンスを測っているんだと思います。
– ちなみにご自身は外に出られます?田口さん、ご趣味は。
あ、僕ね、銭湯が好きなんです。
特に東京では、色んなバックグラウンドを持った老若男女の人が集まっている、数少ないコミュニティではないかと思っていて。
子供ができると学校のイベントとか地域のお祭りとかに参加したりしますが、そうでもないと、地域のコミュニティに参加する機会ってほとんどないですよね。
でも、銭湯は、誰でも集まれるんです!
しかも、普段身にまとっているものを身に着けていない(笑)
衣服はもちろん、スマホも、肩書もです。
– 確かに、知らない方にも話しかけられたりしますからね(笑)
僕はN2N(Nude to Nude)コミュニケーションと呼んでいるんですけどね(笑)
話を戻すと(笑)、そういうことでもないと、地域のコミュニティには入れないんです。
何度も通っているうちに仲良くなった年配のお客さんと仲良くなったりする。
そういう経験って、なかなかできないですよね。
– オススメの銭湯はありますか?
うーん、女性だと、青山の清水湯が綺麗でおすすめです。
[ 南青山 清水湯 – SHIMIZUYU ]– おお、確かに綺麗そう…!
ちょうど今日(3月3日)、情熱大陸で、銭湯イラストレーターの塩谷歩波さんの特集をやるので、見て欲しいなぁ(笑)
[ 情熱大陸 – 銭湯イラストレーター 塩谷歩波(28) ]-あら、想像より随分お若い。面白そうですね!
あと、サウナはお好きですか?
サウナと水風呂の交互浴って、宇宙と一体になる行為だと思っていて。バキっと、整う瞬間があるんです。
もう禅ですね、禅。
– 私も温泉は好きですねー。他にはご趣味はありますか?
あとは映画をよく見ますね。
Nocchiさんは、子供に一本だけ映画見せるとしたら何見せます?
– うーん…『キャスト・アウェイ』ですかね。
私は映画が大好きで年間50本くらい見ていて…
アクション洋画とSFが中心なのですが、本質を突いていると思うのは今でもこの作品ですね。
おお、いいですね!極限状態の人間の本質が描写されてますよね。
僕は『セント・オブ・ウーマン』ですね。アル・パチーノが主演を演じています。
盲目の退役軍人の話で、盲目だからこそ”女性の香り”というタイトルな訳ですが。
– これまた・・・懐かしいですね!
この人のセリフがいちいちかっこいいんですよね…
ジャック・ダニエルを飲みすぎて、仲良くなったから、おれはジョン・ダニエルでいいんだ、とか、かっこよすぎる。
あとはラストシーンも鳥肌必須です。
これ、絶対見せたい。
– 男の子パパになった方が良さそうですね…(笑)
そうかも(笑)
あと『惑星ソラリス』とかね。
-ああ、いいですね…
(以下、映画話でだいぶ盛り上がったので割愛)
– 子供の話が出たので。家族って、なんだと思いますか。
江戸時代って、一人の子供に対して、親がたくさんいたんですよね。
初めて帯を送った親、名前を付けた親。初めて道ですれ違った人も親になる。
Greater家族なんですね。
– 『Cift』が提唱する”拡張家族”ですね。長屋の再現。シェアハウス。
[ 渋谷 Cift ]うん、あとは、鳥羽の答志島にある寝屋子制度も面白いです。
中学を卒業すると、男子は寝屋親という世話役の大人のもとで共同生活をするんです。
これも、1人の子供を、たくさんの親で育てるという実例ですよね。
僕は、ある程度の年齢になったら強制的に社会人寮みたいなのに入れてくのがいいなと思っていて。
– わかります、成長とは親元というより、恐らくはコミュニティでなされるものですし。
ところで、ご自身の働き方についてはどうお感じですか。
田口さんは20代後半の省庁勤務の方にしては比較的ストレスが少なさそうな方だと感じますが…
普段、鬱屈さを感じることはないですか?
同年代の他の人と比べると、ストレスは少ないのかもしれませんね。
もちろん性格もあるのかもしれませんが、経産省って、すごくフラットな組織なんです。
やりたいことがあって、やり抜く意思があれば、チャレンジしやすい環境だと思っています。
なので、作業員でいるという感覚よりもプレイヤーの感覚の方が近い。
他の組織においても、そういう風土作りがあると良いのかもしれませんね。
– 自律分散型に近い組織設計なのですね。
これから
– 今、5億円もらったらどうしますか。
仕事で考えると、額としては少ないんですよね。
だからプライベートで使うかもしれないですね。
うーん、自分が好きな仕掛けを組み込みまくった銭湯とか作ってみたいですね。
実際に経営されている方にお話を伺うと、本当に大変そうなので、大それたこと言えないすが…
– 一般社団法人とか作ってみられたらいかがですか(笑)
仕事終わりに職場の仲間とかと一杯飲みに行ったりするじゃないですか。
それと同じ感覚で、ひとっ風呂浴びに行く銭湯文化を作りたいんですよね。
あとはマインド・アクティブ社会を作るため資金にしますかね。
例えば、お金のない若者って、アルバイトするのが常ですよね。
でもその時間って、結構もったいない。
それにアルバイトって何らかやりたいことをするための手段のはずですが、だんだんアルバイトが目的になっちゃう人って多いですよね。
お金がボトルネックになっている若者が、自分がやりたいことを見つけて、チャレンジする後押しをしたいですね。
– いいですね。これからの働き方は、どうなると思いますか。
僕自身は、楽しいと思ったことをやり続けるのみだと思っています。
どんな仕事をしていようが、自分が楽しいと思えるかどうか、が価値軸です。
それを貫いていきたいですね。
社会全体でいえば、ケインズが言っていたように、仕事以外の時間が増えていくんだと思います。
そうした世界では、自分が何をしたいかを認識して、マインド・アクティブに活動することが大事なわけです。
僕は、古代ローマ時代に見習うべき点もあると思っています。
古代ローマの商人や職人の平均労働時間って、6時間くらいなんです。
それで、昼過ぎには公共浴場に行くとか、仕事じゃない活動をしていたといわれています。
テルマエ・ロマエの世界ですよね。
と考えると、やっぱり銭湯じゃないか…と思うんですが。
– (銭湯、本当に好きなんだな…)
仕事とか趣味とか余暇の垣根って、だんだんと融和していくはずです。
だからこそ、自分がやりたいこと、好きなことをやる世界にしていきたいですね。
– 素敵ですね!働き方については、Startup Weekendでも御指南くださいますね。
このイベントは本当に楽しみにしています!
社会全体として働き方が大きく変わりつつある中で、どんな面白いアイデアが出てくるか、わくわくですね。
– 楽しみです!よろしくお願いいたします。ありがとうございました。
終えてみて
田口さん
こうやって振り返ってみる機会って就活以来くらいなので、自分の頭が整理されるのが一番良かったです。
何を目指しているかが一つのストーリーにまとまるのって新鮮ですね。
あと、Nocchiさん自身が面白いですね(笑)
Nocchi
田口さんは、とにかく銭湯と読書が好きという印象が強烈でした(笑)
それにしても読書量が本当に多いので、引き出しがすごく多くて…こんなに引用を多用する人って過去一番かもしれません。
自身は充足して働きながら、環境に甘んじることなく変化のために動かれている姿勢が素敵でした。
Startup Weekend Tokyo Workstyleもよろしくお願いいたします!
Profile
田口 周平 / Shuhei Taguchi
1992年生まれ。さいたま市出身。
2015年に東京大学部法学部を卒業し、経済産業省に入省。
以来、原子力政策やIT政策(クラウド利用の促進、データ管理のルール)を担当。
現在は、大臣官房総務課総括係長として、省内政策のとりまとめや、西日本豪雨・北海道胆振東部地震などの災害対応を担当。
また、省内で立ち上がった「モビリティと地域・都市の未来PT」の一員として、福井県永平寺町の交通課題解決や、スタートアップのピッチイベントの開催などに取り組む。
さらに、「大臣官房主査」として、霞が関・経済産業省における、若手発の働き方改革を担当。
その他、省内外で複数のプロジェクトにジョインするなど、マルチワークを進める。
最近は銭湯・サウナ・交互浴がマイブーム。ホーム銭湯は板橋・稲荷湯と高円寺・小杉湯。