Vol.25 – 増田 勇野 / Startup Weekendと宇宙就活で、宇宙をツールの一つに

※内容は、2019年2月時点ものです。

止まらない。

子供の頃から宇宙に関連する話題が好きで、仕事としても追いかけてきた増田さん。
学生時代には宇宙に関する仕事への認識を広めようと、宇宙就活というイベントの立ち上げにも関わっていました。
彼は今、Startup Weekend Tokyo Space Vol.2の開催に向けて燃えています。

いま

– 増田さん、今やっていることを教えてください。

日本の宇宙開発支援をする企業で、宇宙ステーションの管制業務、
具体的には地上から宇宙ステーションに滞在している宇宙飛行士のサポート業務をしています。
あとは、宇宙機の概念設計、種子島にあるロケットの射場支援など宇宙開発に関する業務に携わっています。

– 種子島ってすごいですね~!

昨年の後半に初めて滞在したのですが、3ヶ月のはずが4ヶ月滞在することになってしまって(笑)
仕事内容は大きく分けると人工衛星とロケット/射場チームがあり、主に人工衛星のチームに私はいました。
海外との打ち合わせもあるので、英語が喋れる奴がいい、と。

– 現職は1社目なのですか?

はい、新卒からでずっと今の会社にお世話になっています。
宇宙開発は学生の頃から好きで、大学の専攻も航空宇宙工学でした。

ただ、学生時代は周りに宇宙業界に従事している方がいなかったので、市場規模とかがよくわからず不安はありましたけども(笑)
アニメ・漫画・模型などが好きだったので、就職活動時代はバンダイさんでインターンもしていました。

本当に好きなことを確認したかったのが目的です。
好きなことを天秤にかけて、どちらの方が強い情熱を持てるか試してみようと思ったんです。
同じ体力を注いで、いざ本当に辛い時にそれでも頑張れるものが何なのか。
それにはきっと、好きの度合いを確認しておくことが大切だと思ったからです。

– 宇宙の方が上だったのですね。実際に入社されてみていかがですか。

宇宙開発にも色々な分野があるのですが、今の会社に入れてよかったと思っています。
どんなものでもある程度わかってきてしまうと僕は飽きてしまうタイプなのですが、
同じ業務でも新規物を手掛けるよう意識したり、あとは今の部署はもともと会社の中でも様々なプロジェクトに横断に関わらせてくれたのが幸いしていたかと。

と言いつつも昨年の種子島業務を除いて、ほぼ有人宇宙分野に関わっています。その中でも特殊な業務として、出向先の業務ではありますが宇宙服の基礎研究にも携わっていました。

– 面白そうですね〜!宇宙には行かれてみたいと思いますか?

ん〜、地球が楽しいですよやっぱり(笑)

– えええー!(笑)

行っても、5分の無重力体験程度でいいですね(笑)
管制官をしているので、色々な面で大変さは分わかっていますし。
仕事で行くのはいいですけども、観光では宇宙に行きたくはないですね(笑)

– そういうものなのですね(笑)

20代までは行きたいと思っていたかと思いますが、
宇宙開発が好きで仕事にしているので、僕はもう宇宙分野のサービスを提供される側ではないのですね。
なので純粋なユーザではないのかもしれません。

これまで

– 子供時代、学生時代。

根本はあまり今と変わっていないかも(笑)
自分にとって新しいことには積極的に手を出していたかと思います。
生徒会長をやったりだとかストリートダンスを始めたりだとか。
あまりいらっしゃらないと思うのですが将棋を習い事としてやってたこともありました。

– 渋い!将棋の習い事があるのですね!

まぁ僕は小学校の頃にちょろっとやっていただけなんですけどね。
偶然ですが、今高校生の藤井七段と同じ高校に通っていました。

[ 将棋 – 藤井聡太七段 ]

– 高校生棋士ですね。

当時を思い出しても面白い人が集まる高校だったと思います。
他にも器械体操、プール、工作教室、そろばん。
そろばんが一番”やっててよかったなー”といえる習い事でした。
数学が得意になりましたね。

– そういうものなのですか。

単純に計算が早くなるんですよね。
テストの見直しの時間を十分確保できるので点数が上がる。
できるものは好きになる。だから好きな理系をそのまま選べたのだと思います。

理科の中では生物が一番好きでした。
本当は生物系に行きたかった。

– えっ!

当時は宇宙生物という学科を持っている大学がありました。
NHKの地球の歴史特集を録画して何度も見ているような子供でした。
結論を聞いて”そうなんだ”というよりも、自分でそれの真贋を考える/想像するのが好きでした。

[ 宇宙生物学 ]

工場見学って流行りませんでした?
僕は工場自体には惹かれないのですけれど、”工場の外観から、それが何のためのパイプで厚みはいくらなのか、建屋がなぜその配置なのか”などなど、外からの情報しかないのだけど、”中身を理系的にロジック立てて想像する”という観点があるのです、その点では共感をもっていて面白いと考えています。

– 好奇心が強そうですね。では学歴としてはストレートに宇宙へ。

そうですね。
ただ、入学したはいいものの意外と周囲に宇宙に関心を持っている人はあまりいませんでした。
しかも大学は栃木で情報が集まる都内から遠い、つくばのような宇宙センターが近くにあるわけでもない。

大学自体も出来て間もなかったこともあり、あまり宇宙開発を頑張れていないところだったので当時はちょっと焦っていました。
何か頑張らなきゃと大学1年生から宇宙開発に一番近いゼミを訪問し、研究生の方々に交じって入り浸っていました。
そのゼミでは成層圏プラットフォームという、富士重工さんとJAXAさんがやっていた大きな飛行船のプロジェクトに関わっていました。

[ 成層圏プラットフォーム ]

膜材を切り出しては溶着をして円柱状に繋げていくのですが、僕はものづくりが好きなのでこれが面白かったですね。
なかなかみんな上手に出来ないので職人のように頑張っていました。
あとは推進系のプロペラや翼の設計が研究の主内容でした。

宇宙そのものではないので物足りないところはありましたが(笑)、大学選びは僕自身のミスなのでそこで出来る限りのことを頑張ろうとしていました。
最終的には全長14メートルの飛行船を作り上げ、”製作と制御”という観点で4年分の内容を卒業研究として扱いました。

– この頃はバイトもされず?

していました。
家庭教師と、就活が終わった後にはインターンでお世話になったバンダイさんのたまごっちの販促イベントのお手伝いとか。
宇宙業界以外の繋がりも必要かなと当時は思っていて。

– たまごっち懐かしいですね〜。小学生の頃持ってました。

最近のたまごっち、大きいんですよ。
フルカラーだし。配合もできるし。

[ ネットで発見!たまごっち ]

– まだあるんですねぇ…

仕事の進路として宇宙を選びましたが、ゲーム・マンガ好きは変わりませんでしたのでそういったイベントのお手伝いが出来たのは面白かったですね。

ちなみに一番好きなゲームは糸井重里さんのMOTHER2です。
家にはどせいさんのぬいぐるみもあります(笑)

[ MOTHER2 ]

– 懐かしいですね、うちにはカービーがいますよ〜(笑) ゲーム業界へ行かれなかったのは何故なのでしょう。

多分、手で触れる物の方が好きなんだと思います。
今は3Dプリンターにすごくハマっていて。
当初はもちろん自分がモデリングしたものをプリントするのが目的だったのですが、途中からなぜか壊れた3Dプリンターを買っては修理するということに注力してしまいまして(笑)
合計家に4台あります(笑)

– えーっ、4台もいりますか!?

3Dプリントって意外と時間がかかるので、同時並行で印刷するのですよ。

– 何を作ってらっしゃるのですか?

交響詩篇エウレカセブンというアニメの劇場版で、スーパーパックという装備をしたロボットが登場するのですが、なぜかそこまで人気があるわけではなかったので販売されず自作してしまおうかと。
アネモネというキャラがいるのですが、こちらもあまりフィギュアの種類もなく加えて入手もできず、フルスクラッチで作ってましたね!
社会人あるまじき時間を投入していたと思います。。。

[ 交響詩篇エウレカセブン ]

– エウレカ、懐かしい!そして、すごい!(笑)

モデリングは無料の3D CADを使っています。
ワンフェスに出そうかなとか思った時期もあったり。
ご存知ですか?、ワンフェス?

– あ、はい!私もアニメ漫画ゲーム好きなので…(笑)

よかったです(笑)

[ ワンダーフェスティバル ]

色々な物を試行錯誤して、もっともいいものを作りたいという志向が強いのだと思います。
バンダイのインターンの時もマーケティングなどではなく、おもちゃの町と言わている栃木の壬生町にある部署で設計のインターンをやっていたんですね。

やはり昔から変わらず、工夫してものづくりすることの方が好きなんですね。
3Dプリンターや工具は手の延長線上にあるのだと思っているので、技術が進むと扱える道具も変わってアイディアを出す頭の使い方も変わるので楽しいです。

– IoTにはご興味は?

入門としてラズパイを買いました。
どちらかというとモノづくりではなく人工衛星利用に絡めてやりたいですね。

[ ラズベリーパイ ] ※Amazonでも購入可能です

触れるユーザが増えれば、触れる価値観が増えるということになりますから新しいアイディアやニーズが増える可能性が今よりずっと増えていくと考えています。
例えば、この部屋ならデザインを気にする人もいれば、耐震性を気にする人もいるし、集客が気になる人もいると思います。
一方宇宙は、こうやって意識的に触れてもらえる機会や実物が少ないのが一番の弱点なのではないかなと。

僕はStartup Weekend Tokyo Space Vol.2(以下、SWT Space Vol.2)の運営もやっているのですが、宇宙技術やデータを身近に使われるようにしていきたいという気持ちがずっとあります。

[ Startup Weekend Tokyo Space Vol.2 ]

https://swtokyo.doorkeeper.jp/events/87258

[ Vol.1の開催レポートはこちら ]

学生時代は宇宙就活というイベントをやっていて今も後輩が続けてくれています、
結構、北海道や九州とか遠方からも来てくれる方が多いんですよね。

[ 宇宙就活 ]

– 宇宙兄弟が流行ったことで、希望者は増えたのでは?

知っている人は増えたのでしょうけども、仕事としてやりたい人が増えたかというと、これからなところはあるのかなと思います。
宇宙系の作品と言えばエウレカセブンの作画担当の方、電脳コイルというアニメの監督をされていた方が「地球外少年少女」というアニメの企画を昨年発表されてました。
同じように宇宙分野が身近になるきっかけの一つとして期待しています。

[ 宇宙兄弟 ] [ 磯光雄監督 地球外少年少女 ]

– あぁ~電脳コイル…!地球外少年少女も観てみたいです!

仕事の話に戻りますが、やっぱり打ち上げのロケットが目立っちゃって一般の方からしたらそのイメージが強過ぎてその前後を想像できないのではないのかなと。
ここ最近は宙畑さんがよくまとめてくださっていて私も大変勉強になっています。

種子島の経験で例えると、ロケットの燃料の製造、その輸送、衛星も運ぶためにはコンテナが必要ですし仕事は色々あるのですけれども、なかなかね。

[ 宇宙がわかるサイト – 宙畑 ]

– 宙畑さんはSWT Space Vol.1の時も関わられていらっしゃいましたね。

価値観

– 今、一番情熱を注いでいること。

今、時間を使っているのはSWT Space Vol.2の準備ですね!!
仕事との時間の天秤がなかなか難しいです(笑)

– SWT Space Vol.2でリードオーガナイザーをされようと思われた動機というのは。

やはり宇宙業界の技術利用への認識を広めたい気持ちですね。
宇宙開発で手に入れた技術や情報は、あくまでも何かを実現するための手法の一つなんです。
衛星もロケットも、あくまでもツールなのでそれ自体が何かのソリューションになっているわけではありません。

我々は感覚値として宇宙はツールの一つだという認識がすでにあるので、どういう広がりがあるかを理解できているのですが、多くの方は多分、打ち上げ動画を見て「すごい!!」と思われて終わりなのかなと。

– ユースケースとして気になっているものや、宇宙ベンチャーなどはありますか。

ハードウェアですと人工衛星のワークスペースですかね。
僕はつくばに住んでいるのですが、彼らの拠点もつくばということもあって応援しています

[ ワープスペース ]

ソフトウェア系で挙げるとさくらインターネットさんです。
Google、Amazon、IBMなども今後ビッグデータを色々扱っていってメディアなどもやると思うのですが、宇宙に特化して頑張って欲しいのはここだなと。
宙畑がメディアとして提携されているそうなので、知名度や身近さを武器に住み分けして育っていってくれたらと思っています。

– そうですね。お仕事以外で好きなこと、ご趣味は。

模型以外ですと自転車が好きで。
あとDJとダンス。

ロッキングという80年代前後の昔のスタイルのダンスが好きで。
ただマイナーなので、ヒップホップとかもやっています。
そういえば種子島でもダンスは続けることが出来ていました。
なんと鹿児島本土から船でインストラクターの方が来てレッスンをしてくれるんです (笑)
滞在中に丁度、種子島の宇宙センターができて50周年のイベントが開催されたのですがステージに立つ機会にも恵まれました。

[ ダンス – Rocking(ロッキング) ]

– ダンスはどこがお好きなのでしょう。

楽器やりたかったけどやってない、でも音楽に関わりたい、かな。
あとは価値観は広げておきたくて。

当時はなんとなく始めましたが、周囲の宇宙業界でもダンスやっている人なんていないので(笑)、ダンスに限ったことではありませんが広く交流があるのはすごく面白いと思っています。

– これらを仕事にしたいとは思われますか?

いや、全然(笑)
3Dプリンターも模型もDJも自転車もダンスも、他分野に関わることによって宇宙開発に活かせる視点を増やそうと思っているからやっているというのが中心であくまでインプットの場です。
僕にとっては、全てのアウトプット先は宇宙ですね。

これから

– 今、5億円もらったらどうしますか。

うーん、少ないですね(笑)

– (笑)

こういう、SWT Spaceみたいな宇宙技術を広める活動はたくさんやりたいですね。
海外でも開催されているので日本とつなぐ活動もいいかもしれません。
人工衛星を作って打ち上げることもできますね。

– 家を買うとかが出てこないあたりが、やはり好きなことを追いかけているのですね。

5億円もあれば生活費に余裕が出るので、宇宙を追いかける姿勢を持ちつつ、好きなところに住んで、別の環境を選んで、価値観や視点を増やす仕事や活動に使うのは面白いかもしれません。
とかいって、豪遊したりするかもしれませんが(笑)

– 今年やりたいこと。

慣れていないというのも理由ですが今は4月のSWT Space Vol.2で手がいっぱい。
昨年の7月から構想していたので楽しみです。

落ち着いたらソフトウェアを触りたい。
ラズパイはしっかり扱えるようになりたいですね。
でもやはり最後はアウトプットが大事なので、色々作ってみたい。
仕事以外でも宇宙開発/ビジネスに役立つ技術や情報を身に着けたいというのが根底にあります。

– 楽しみですね!ありがとうございました。

終えてみて

増田さん

5億円の話とか、今年やりたいこととか聞いていただいたんですが、その時やりたいことやってるなって改めて思いました(笑)
あと、宇宙開発の事業って今は税金頼みなところがあるから、中長期的には自分で作っていきたいなという気持ちが固まるきっかけになりました。
イントレプレナーでもよくて、税金構造から脱却することを進められる人になりたいですね。
ありがとうございました。

Nocchi

宇宙のことはもちろん、DJやフィギュアの話が飛び出してきて、とても面白かったです。
このまま宇宙を追いかけられると良いですね!

Profile

増田 勇野 / Yuuya Masuno
宇宙開発支援企業所属 エンジニア
Startup Weekend Space Vol.2 リードオーガナイザー
宇宙業界17年目。有人宇宙分野を中心に研究・開発・運用業務に従事。
種子島にて射場業務も経験。
学部時代に宇宙業界に特化した合同企業説明会「宇宙就活」を仲間と共に立ち上げる。
「宇宙開発を問題解決のための一手段として認識してもらいたい」という考えのもと
Startup Weekend Space Vol.2 リードオーガナイザーとして活動中。